西日本入管センターは被収容者処遇規則を守っていない

 私たちはずっと西日本入管センターに収容されている外国人の処遇にこだわってきました。入管に関する新聞記事の多くが職員による暴行事件(裁判所が認定)、自殺や自殺未遂事件(2000/3からの4年で自殺と未遂が少なくとも23人)、体調の悪化(身体の痛み8割、不眠9割)、窮屈な部屋(1人1畳)、出身国の文化を理解しない対応等々・・だったからです。

 不祥事件が多発し、人権運動団体の活動によって当初に比べて改善されてきました。しかし多くの人が長期収容を強いられ、しかも人間として扱われておらず、被収容者処遇規則第一条の目的「収容されている者の人権を尊重しつつ、適正な処遇を行う」には程遠い現状にあり、これからも処遇の改善は大きな課題となっています。

 それでは被収容者処遇規則(最近改正は2003年11月28日、法務省令第75号)を見てみましょう。考える会ではこの規則を見ながら感想を語り合いました。主な問題点や疑問点は次のとおりです。字数の関係で条文の省略があります。なお規則条文はインターネットで簡単に検索できます。

◆第一条 (目的) 「この規則は、出入国管理及び難民認定法により入国者収容所又は収容場に収容されている者の人権を尊重しつつ、適正な処遇を行うことを目的とする」

◆第二条 (生活様式の尊重) 「入国者収容所長及び地方入国管理局長は、収容所等の保安上支障がない範囲内において、被収容者がその属する国の風俗習慣によって行う生活様式を尊重しなければならない」

問題点 国、文化、生活習慣への配慮が全くなく、同室者の間でトラブルが多発している。

◆第三条 (収容所等の構造及び設備) 「収容所等の構造及び設備収容所等の構造及び設備は、被収容者の健康及び収容所等の秩序を維持するため、通風、採光、区画及び使用面積等に配慮するとともに、被収容者の逃走、奪取、暴行、自殺その他の事故(以下「保安上の事故」という。)を防止するため、堅固で看守に便利なようにしなければならない」

問題点 居室は今も1人1畳しかなく窮屈で身動きが取れない。

◆第四章 (保安) 第十七条で被収容者の行為の制止、第十八条で被収容者の隔離、第十九条で被収容者に対する(必要最小限度の範囲で)戒具の使用ができる。

問題点 革手錠は新しく開発されたものになっただけで到底事故を免れるものではない。隔離も恣意的なものになっている。

◆第二十八条(運動) 所長等は、被収容者に毎日戸外の適当な場所で運動する機会を与えなければならない。ただし、荒天のとき又は収容所等の保安上若しくは衛生上支障があると認めるときは、この限りでない。

問題点 以前はほとんど運動の時間はなかった。やっと2年前から規則どおりに、しかし四方が囲いのため、一部の空しか見られない。狭く思い切って体を動かすことはできない。

◆第二十九条(衛生) 所長等は、被収容者の衛生に留意し、適宜入浴させるほか、清掃及び消毒を励行し、食器及び寝具等についても充分清潔を保持するように努めなければならない。

問題点 シャワーは週2回しか水が出ない。ふとんはなく毛布を重ねて使っている。シーツは自分で洗う。掃除は被収容者に委ねられ、消毒等は行われていない。夏になると疥癬、ノミ、ダニの皮膚病が蔓延することが多い。

◆第三十条(傷病者の措置) 所長等は、被収容者がり病し、又は負傷したときは、医師の診療を受けさせ、病状により適当な措置を講じなければならない。2 収容所等には、急病人の発生その他に備え、必要な薬品を常備しておかなければならない。第八条にも「所長等は、新たに収容される者について、必要があると認めるときは、医師の健康診断を受けさせ、り病していることが判明したときは、病状により適当な措置を講じなければならない」とあります

問題点 持病の治療は皆無に近く、病状の悪化が進んでいる。なかなかセンター外の病院には行けない。行く時も犯罪者みたいに手錠つきで、行かなければならない病状でも屈辱を味わってまで行けない。今年になって持病者の訴えを無視した挙句の死亡事件が発生した。「必要な薬品を常備」とあるが、ごくわずかな薬品しか使われていない。

◆第三十七条(通信文の発受) 被収容者の発信する通信文を検閲した場合において、当該通信文の内容に収容所等の保安上支障があると認める部分があるときは、当該被収容者にその旨を告げてその部分を訂正させ、又はまつ消させた後発信させるものとし、その指示に従わないときは、これを領置するものとする。

2所長等は、被収容者の受信する通信文を検閲した場合において、当該通信文の内容に収容所等の保安上支障があると認める部分があるときは、その部分を削除し、又はまつ消して当該被収容者に交付するものとする。この場合において、交付することが適当でないと認めるときは、これを領置するものとする。

問題点 通信の秘密は基本的人権でありこのような規定が必要とは思われない。

◆第八章雑則(外出) 被収容者を外出させるときは、入国警備官に看守させなければならない。

問題点 病院での治療のための外出なのに、手錠など犯罪人扱いは不当である。

◆第四十一条 (被収容者の申出) 「被収容者から処遇に関する申出(次条第一項の規定によるものを除く。)、その他法令に定める請求又は申出があつたときは、直ちに所長等に報告しなければならない」2所長等は、前項の報告のあつた事項について、速やかに処理し、その結果を当該被収容者に知らせるものとする。

◆第四十一条の二(不服の申出) 被収容者は、自己の処遇に関する入国警備官の措置に不服があるときは、当該措置があつた日から七日以内に、不服の理由を記載した書面により所長等にその旨を申し出ることができる。2所長等は、前項の規定による申出があつたときは、速やかに必要な調査を行い、その申出があつた日から十四日以内に、その申出に理由があるかどうかを判定して、その結果を書面により前項の規定による申出をした者(以下「不服申出人」という。)に通知しなければならない。

◆第四十一条の三(異議の申出) 前条第二項の規定による判定に不服がある被収容者は、同項の規定による通知を受けた日から三日以内に、不服の理由を記載した書面を所長等に提出して、法務大臣に対し異議を申し出ることができる。2所長等は、前項の規定による申出があつたときは、速やかにその申出に係る書面及び前条第二項の調査に関する書類を法務大臣に送付するものとする

3法務大臣は、第一項の規定による申出があつたときは、速やかにその申出に理由があるかどうかを裁決して、書面により所長等を経由して第一項の規定による申出をした者(以下「異議申出人」という。)に通知するものとする。

問題点 第四十一条の一から四にかけての「被収容者の申出に対する措置」、「不服の申出」、「異議の申出」、「所長等の処置」は被収容者の権利に属するものであり、雑則での規定ではなく、章を起こして独立させるべきである。指摘してきた多くの問題がある以上、四十一条の権利行使は多くなされていて当然だが実態はどうか、もし行使されていないとすればその原因はなにか。

 これに限りませんが、この規則全体が収容者に知らされているか大きな疑問です。単に被収容者の守るべき遵守事項だけしか示されず、収容する側の所長等が守らなければならない事項は知らされていないのではないかと推測せざるを得ない実態があります。私たちは実態に関する情報の開示を求め、改善を求めたいと考えています。

「お元気ですか」30号 1992年8月