納税貯蓄組合補助金を40年間違法交付

 

 九月議会、前年度の予算が適正に使われたか審議する決算委員会が開かれました。この委員会は全部で一一人で構成され、社会党は毎年順番で委員を決めており今年は私の担当です。

 茨木の決算委員会は大抵四日間、三日間は伝票をめくり、最終日が質疑となります。今年の伝票枚数は歳入、歳出合わせて実に五万一五〇〇枚。保育所で使うシャボン玉液三〇円から今回取り上げた各種団体に対する補助金など全てをチェックします。これだけの伝票をめくるのは大阪府下で茨木ぐらいのもので実に丁寧。茨木市議会の誇りだと思っています。

 このような丁寧な審査が茨木の伝統になっているのは以前に「政争の街茨木」として名を馳せたころに逆上るのではと推測するのですが、この点については、またレポートの機会があるかと思います。

 

違法な補助金、昨年だけで一八二六万円

 

 さて今回の決算委員会。私の事前調査でとんでもない補助金の違法交付が判明し、一時間半にわたって追及することになりました。なんと市は四〇年もの間、市内の一〇七ある納税貯蓄組合に対し違法な補助金を交付していたのです。違法な支出は昨年だけでも一八二六万円余りに上っており、これまでの総額はどれだけになるのか見当もつきません。

 納税貯蓄組合とは住民の納税(住民税、固定資産税、都市計画税、軽自動車税)を促進する目的で一九五一(昭和二六)年に制定された納税貯蓄組合法に基づく住民団体で、同法第十条の中で地方自治体が補助金を出しても良いとされています。ただ補助金の範囲は@組合の事務に必要な使用人の給料、A帳簿書類の購入費B事務所使用料などの事務費に限定され、当然のことながら補助金の額は組合が使用した事務費を越えてはならないとしています。

 

法に違反し金持ち優遇の算定基準

 

 ところが市が要綱の中で補助金の対象にしていたのはこれらの事務費ではなく@納税額、A納税率、B組合員数なのです。二〇人いれば組合として認められ補助金の対象になりますから、極端に言えぱ高額納税者つまり金持ちが二〇人集まり事務費は一円もいらない組合の方が、低額納税者が一〇OO人いて多額の事務費を使っている組合よりも多くの補助金がもらえるということが出て来ます。法律では規模が大きくなるに従い、当然事務費も多くなり補助金もたくさん出てくるわけですから、法律と市の要綱との大きな矛盾は否定しようもありません。

 そして何よりもこの要綱の許しがたい点は納税額が多いほど補助金が多くなるという金持ち優遇の算定基準です。

 

医師会に一二三万円も

 

 このことは昨年最高の補助金を受け取っていたのが大崎会長率いる茨木市医師会でダントツの一三三万円余りだったことからも明らかです。地方自治体に貧富の差をなくす先頭に立てとまでは言いませんが、自らそれを拡大するような金持ち優遇の要綱を、しかも法律に違反してまで作った茨木市の責任は追及されねばなりません。

 さて法律違反の要綱が何をもたらしてきたのか、私の委員会での質疑や調査で明らかになった具体的な事実を披露してみましょう。違法事務の連続ばボタンの掛け違えにも似てその悲喜劇の滑稽さには思わずニヤリとしてしまいます。もちろん大切な税金の使途ですし、ニヤリとばかりはしておれませんが……。

 

なんのための書類提出

 

 悲喜劇の第一幕は市の要綱から始まっていきます。要綱の条文で法律違反の補助金算定基準を設けておきながら、各組合が市役所に提出しなければならない補助金交付申請書、補助金収支報告書では法と同様@組合の事務に必要な使用人の給料、A帳簿書類の購入費B事務所使用料、C総会費用を記入するようになっています。要綱条文の算定基準で支給するのであれば、記入すること自体意味をなさないと思うのですが……。

 

補助金資格は全組合がなかった

 

 さて組合はどんな書き方をしているかなと収納課で調べたら、案の、組合が提出した補助金交付申請書、補助金収支報告書はどれをとってみても、@組合の事務に必要な使用人の給料、-A帳簿書類の購入費、B事務所使用料、C総会費用についての記載は全くなく、全て空欄。記入されているのはその他の経費のみだったことです。収入にしても役所からの補助金だけです。つまり全ての組合が法律に基づく補助金を受け取る資格はなかったことになるのです。

 

 役所ぐるみの違法事務

 

 第二幕はどうして総ての組合が同じ書き方になったのかということです。もしそれぞれの組合が法に基づき実際使用した事務経費を申告すれば、算定基準は法と要綱とでは全く異なるのですから、矛盾が出てくるのは理の当然といえます。つまり法では記入された事務経費に対する補助金になり、要綱では納税額中心の補助金になるわけですから収拾がつかなくなってしまいます。ですから役所は総ての組合に対し、「記入するのは申請書も収支報告書もその他の収入だけ、収入も役所からの補助金だけ書いて、後は何も書かないで空欄にして下さい」と指導していたと考えるのが自然というもの。とすれば市が自ら違法行為をそそのかし、手助けしてきたとも言えるのではないでしょうか。まさに法無視もここまでくるとたいしたものです。

 行政が法に基づくどころか、全く別物の、しかも勝手に改廃できる要綱を法よりも上位に置いていたから矛盾はとめどもなく拡大して第三幕に移ります。

 

さて第三幕。役所は各組合にお宅の今年の補助金は納付額、納付率、組合員数で計算したらこれこれですよと連絡します。連絡をうけた組合長はその他の経費にその数字を書き込んで補助金申請に必要な事務は五分で終了。要綱の仕組みでは法律で定めているチェックはもともと要らないのです。
 書類提出も組合長の都合で日付が異なってくるものですがなんと総て三月三〇日の日付になっています。そして申請に基づき妥当かどうか審査して妥当であれば市長名でお宅の組合の補助金はこれだけですという指令書が組合長に出されるということですが、この指令書の日付も総て三月三〇日。三月三〇日は総ての組合長から書類を受け取り、総てチェックし、また指令書も全部作成する日ですから収納課の一年で一番多忙な日、徹夜に近い作業でもしているかと思えば平常の勤務ぶり。いくら行革先進都市茨木の少数精鋭の職員だとはいえ、日付をごまかしているのは明らか。組織ぐるみで公文書を偽造していたことになります。

 

 市も監査委員会も40年ノーチェック

 

 四幕に移ります。さて昨年だけでも一八二六万円余り、四〇年間となると計算するのが怖くなるような巨額の補助金、その使途はチェックされてきたのでしょうか。

 役所の要綱では「組合の健全な発達を図るための補助金」なめですが、実際は市は渡すのみ。これまで一度として予算、決算を調べたことはなく、これは監査委員会も同じ。「納税貯蓄組合は盲点でした」と職員が質疑の後で認めていました。多額の公金支出にしてはまさにズサンの一言につきます。

 担当者によれば今は自治会の予算に組み入れられているのが多いが、過去は飲み食いに使われたこともあると話しています。調査していないのですから実情は闇の中です。私には各納税組合が独自に総会を開き、予算、決算について組合員の了解を取り付けているようには思えません。最高の補助金を受け取っている医師会はどうしているのか聞きたいものです。

 なお話はそれますが、市は医師会に刈して具体的な委託料としての五六〇〇万円余はいいとしても、ただお世話になっているとして二七〇万円の地域医療報償金、二五万,円の予防接種協力報償金も支払われており、やや機嫌取りが過ぎるような気がします。

 

 補助金以外にも厚遇の納税組合

 

 要綱では組合長へ毎年の報償金の他、組合設立五周年、一五周年、三〇周年の報償金を定めて支出していますし、それ以外にも年一回梅田コマなどに招待していますが、法に照らしていかがなものでしょうか。なお組合長に名前を連ねているのは医師会長だけではありません。現職の市会議員、監査委員など市の公職についている人も多く、何故補助金の違法性、でたらめな事務手続きに気付かなかったのか責任の一端は免れません。ただ何といっても最大の責任が市にあることは問違いありません。

 助役は委員会での私の追及に、要綱では「法令に定めるもののほか」とあり、市独自に作った要綱に沿って交付しても違法ではないと苦し紛れの答弁をしていましたが、これだけの事実の前には白けるだけで何の説得力もありません。

 

全国に広がる違法補助金支出


 以上が茨木市の実態ですが、もちろんこの補助金は大阪府地方課の調査で府下三二市中三}市に(別表)交付されており、総額は単年度で一〇億円を越えています。茨木と同様のことが行われていることは容易に推察できます。人口比でいえば茨木はまだ少ない補助金額だとも言えます。
 また大阪府地方課が他の資料と同様の取り扱いをしていることはこの違法性に何ら気付いていないことの証左であり、各市町村への指導監督の不十分さを示しているものです。

 ついでに言えば日本国中、全ての都道府県も同様。実態に合わなくなった法であれば改正か、若しくは廃止すべきなのに、自治体の違法状態に気付くことも無く、放置してきた自治省の責任も問われてきます。やたら問題が大きくなってしまいましたが、事の重大性は相当なもので国レベルまで波及す内容です。

 

与党であっても正すぺきは正して

 

 市はとりあえず大阪府地方課と相談をし、場合によっては自治省まで出向くとのこと。北摂の各市と共同歩調をとりながら無難に事を進めようとしています。
私は市の対応を見守るとしても、今年度から違法な補助金を廃止するか、法の枠内に是正するかしなければ、法的手段を講じてでも決着をつけたいと考えているところです。与党なら穏便にという考えも一部にはあるかもしれませんが、与党の前に議会人として行政を鋭くチェックすることこそ必要ですし、反ってそのことこそが与党の議員にも求められていると感じています。

 

月刊「地方政治」 1992年1月号 掲載分