徹底した民主主義と実力主義

米・加視察 市民も議会で発言

 

 「議員が海外視察をしても本人は何も報告せず旅行社が作成した報告書で済ましている」と問題にされました。この報告は議会に提出済みの中から抜粋したもので一部変更を加えています。

 

 「外国に行くと日本のよさが分かる」と自民党筋の方はよく言われ、それは日本の現状に満足すべきだという意味合いも込めているのですが、所詮生身の人間のやること、古今東西100%良い国も悪い国もない訳で所詮、程度問題にすぎないと思っています。

 私にとって日本が良いとか悪いとかいうことではなくそれぞれの政治風土やものの考え方の違いを生で感じてみたいというのが海外視察の目的でした。

 

 今回の海外視察は全国市議会が主催し北海道から九州の議員29名、議長会事務局1名、添乗員2名の団構成で大阪からは富田林と茨木(中内市議と私)の4名が参加しました。視察はミネアポリス市の高齢者施設見学(茨木の2名は姉妹都市ということでフレイザー市長、ベルトン議長、スバージョン文化協会長に迎えられ歓迎行事に参加)を手始めにカナダのウィニペグ、アメリカのロサンゼルスの両市議会を公式訪問、ワシントシ、ニューヨーク、ナイヤガラも訪れました。

 ただどこも日本人が多く海外の実感が湧かなかったのにはとまどいました。ワシントンには日本人の団体旅行客の観光バスが連なり、ニユーヨークのヒルトンホテルには新婚旅行のグループ、ナイヤガラには日本人専用の経営者、店員とも日本人の土産店や大橋巨泉の店があるという具合です。

 

市民の権利を大幅に保障

 各市の予算や施策は国情や議会制度の違いも有り、茨木の行政にすぐさま参考になるものはほとんどありませんが民主主義、地方自治という点では教えられることがありました。

 

 ロサンゼルス(以下ロスと略)市議会では市民が自由に発言する機会を与えられており、日本のただおとなしく聞いているだけの傍聴者とは違い、議場も市民のスペースが半分を占めており市民参加そのものの議会運営でしたし、カナダのウィニペグ市の警察は日本の中央集権的性格とは異なり市が予算を組み市行政の一つに位置付けられていました。

 

 またアメリカ国会図書館を利用する際に身分証明書を提示する必要はなく市民に開放されており国民の知る権利は自明のこととされています。日本は情報公開法すら無く自治体で情報公開が制度化されても実質非公開が多く我国の民主主義の未熟さを痛感させられました。

 

ホームレスを産み出す社会

 カナダのウィニペグ、アメリカのニューヨーク、ワシントン、ロスなど至るところでホームレス(住む家がない)の人々を見かけました。ほとんどが有色人種でウィニペグ市の場合はカナダインディアンの人がホームレスになるケースが多いとのこと。もともと先住民族のインディアンの土地を白人が奪い、経済的に支配していったのですが、現在ではカナダインディアンを一定の居留地に住ませ生活保護で一生衣食住には支障ないものの、自立の為の教育は何もなされてないとのことです。

 

 教育がされてない最大の理由は「権利意識に目覚め白人が土地を奪ったことに対する責任や賠償問題が生じたら困る」というのが添乗員の答えでした。それにしてもこの国の人達はインディアンの基本的人権をどう認識しているのだろうかと思ってしまいました。

 

 ロスでの宿泊はリトル東京内のホテルでしたが、そこから150m離れた教会が食事の面倒を見ていることもあって周りには100人を超すホームレスの人々がたむろしていました。

 

言葉も肌も様々 ロスは多民族社会

 もう一つは人種・民族問題。梶山法務大臣の「悪貨が良貨を駆逐するようにアメリカにクロが入ってシロが追い出される」の差別発言さなかの視察だったのですが人種問題は今もアメリカでは大きな課題です。

 

 中でもニューヨーク特にロスでの人種、国籍の多様性は想像していた以上でした。たまたま買い求めた日本人向けのビジネス情報紙に別表の資料が有りましたので参照してください。表でも分かるように860万の人口中ヒスパニック系(メキシコ、カリブ海などラテンアメリカからの移民)36%、黒人が11%、アジア・太平洋諸国系が11%を占めており、特に朝鮮戦争やベトナム戦争を契機にアジア系の移民が激増していると報じています。

 

 ロスの街を一人で歩き廻っていたのですがリトル東京、チャイナタウン、コリアタウンリトルタイペイ、リトルサイゴンというコミュニティも形成されています。ロスで話されている言葉は細かく分ければ80前後の種類になるらしくその多民族社会ぶりを物語っていました。

 

成功と挫折の中で

 個人の力量でいくらでも金持ちになれるというサクセス願望はどこでも共通なのでしょうが、多民族国家アメリカではそれが特に強くニューヨークやロスに人口が集中する要因にもなっています。しかし強者と弱者は世の常。夢敗れてホームレスになったりアメリカを去るケースも多いのですがその弱者に対する視線は冷淡そのもので人間に対するものとは思えませんでした。

 「カネ万能」という考えはアメリカだけではなく日本も同様なのですが…。強者と弱者の差は当然という考えが医療や年金などの社会保障よりも私的保陣が中心になっている根底にあるのかも知れません。

 そんなアメリカで身体障害者が自由に歩き回れる環境が法的に保障されているのはまた別の社会土壌なのでしょうか。興味のあるところです。

 

 首都ワシントンは政治の中心地であるとともに観光地にもなっていてホワイトハウス、ポトマック公園、リンカーン記念堂、アーリントン国立墓地、最高裁判所、スミソニアン博物館群国立美術館など国内外からの観光客で賑っていました。素晴しいと思ったのは航空・宇宙館などのスミソニアン博物館群と国立美術館。ライト兄弟やリンドバークの飛行機、宇宙船など多くの実物が展示され、またラファエロ、ルノアール、ダヴィンチなどの作品約2万点を収蔵した内容もさることながら入場料はどちらも無料になっておりアメリカの度量を感じました。

 

 ホワイトハウス前で寝泊まりしながら広島・長崎の被爆者やチェルノブイリ原発事故の写真を看板にして反核を訴え続けて10年目になるビシオツトさんと出会うことが出来ましたが、日本の首相宮邸や国会前だったら即排除だろうなという思いもかすめました。

 

 そのワシントンで多くのポスターを見かけました。一番目立ったのが中間選挙を前にした各候補者のもので、それに混って中東への米軍派兵反対やエイズ救援を呼びかけるポスターも結構見かけられました。ブッシュ大統領は中東へ更に軍隊派遣の意欲を示していますが、解決が長引くにつれ国内の厭戦ムードは急速に高まっており中間選挙でも大統領の共和党にとって不安材料となっています。

 

 ワシントンではアーリントン国立墓地にも足を運んだのですが墓の大小は軍隊での階級は無関係で将校も一般兵士も同じ扱いお金によって形が決まることがいかにもアメリカ的でした。またバッファローにある軍需産業は米ソ軍縮の流れの中で縮小を余儀なくされ失業者が増えており、時勢を感じさせました。

 

 11日間の視察で見れたものはホンのわずかにすぎません。ただ遠い存在だったアメリカ・カナダを身近に感じるようになり底辺で生きる人々、多民族社会を実感できたことは一つの成果でした。

1991.1 社会新報(お元気ですか)