茨木市議会議員 山下けいきHP

 

 

住民基本台帳カードの利用に関する条例への反対討論

2008/6/26

 
私は住民基本台帳カードの利用に関する条例に反対する立場から討論します。

今回の条例案は、住民基本台帳カードを使って、住民票、印鑑証明書をとれるサービスを始めるための条例案であります。しかしながら以下の問題点を指摘し反対するものです。

一点目は大変な無駄づかいだということです。
本市の住基カードに関する経費は昨年度まで約8700万円、うち市の負担は6000万円です。ところがこれだけのお金を使っても発行枚数は4923枚、普及率はわずかに1、83%に過ぎません。一枚あたり17650円と大変高額ですが、不人気そのものであります。国が交付税で一枚当たり1000円も金を出しても、カード枚数は一向に伸びなかったのであります。今回の補正予算で住民基本台帳カードの利活用事業として6643万円もつぎ込んでいますが、無駄な経費につながることは容易に予測されるわけであります。

カードがなぜ国民にとって魅力がないかの自覚も反省もないまま、ともかく安くすれば伸びるだろうと市民には無料、交付税は1500円の大盤振る舞いですが、極めて安直だと指摘するものです。石原都知事が、倒産必至の新銀行東京に、都民の税金400億円を「追い銭」としてつぎ込む無駄づかいの構図に似たものを私は感じます。

国民にとっては初期投資の400億円、毎年の維持管理費に約200億円を要する住基ネットそのものが無駄づかいですが、人気のないカードにこれまで以上に湯水のごとく金をつぎ込むことに反対するものです。

二点目は住基ネット、住基カードの大きなうそとごまかしであります。
当初、国はこの制度を自治体が望んでいると説明していました。しかし議会質疑でも申し上げたように日弁連の自治体アンケート調査からはそのことはまったく伺えません。
また市民に発行されたカードの大半は顔写真入であり退職者や運転免許がない場合の身分証明書としての活用であると思われ、総務省が唱えた全国どこでも住民票の写しが取れるなど利便性を感じる市民は皆無に等しく、導入の根拠は雲散霧消している実態があります。このことからも住基ネット、住基カードのメリットは、市町村にも国民にもなく、国による個人情報の活用しかないと指摘されており、国の説明には大きなごまかしがあると言わざるを得ません。

日立、富士通、NEC、日本IBMなどIT関連企業を中心に構成された財団法人 社会経済生産性本部 情報化推進国民会議は国への提言の中で
「住基カード」は国民IDカードとして一定年齢以上の国民に無料で配布すること。市町村に閉じた利用から広域での利用が可能になり、利便性は格段に向上する。と述べ
自治体首長に対しても、「庁内LANは90%の自治体で整備されており、その内86%の首長には専用のパソコンが整備されているが、「ほとんど使用していない」と回答している首長が34%に達している。積極的なIT体験や日常業務でのIT利用を通じて、ITの本質理解と自らの意識改革に努めること。そして、強力なリーダーシップを発揮して電子自治体構築の推進を図ることを望みたい」とまで干渉しています。

 更には「住民基本台帳ネットワーク」などの行政ネットワークは国民全体の財産であり、 特に「自分は本人だ」と証明したり、「この情報は間違いなく本人からのものだ」と証明するための 住基カードの意義は大きく、可能な限り広範に活用され、社会生活の利便性向上に資するべきである。と述べています。自分が自分であるとカードでしか証明できないような社会のどこがいいのでしょうか。カードによって自分を証明するなど本末転倒、人間疎外の典型的なもので、チャップリンのモダンタイムスの世界を想起させるものです。カードと人間の関係が逆転するかのような未来社会など私は真っ平ごめんです。こんな社会を住みやすいとも思いません。IT企業が政官財の癒着で大もうけするための住基カード社会に反対するものです。

 三点目は総背番号制の問題です。
全国民につけられた住民票コードが年金番号や納税者番号等とぃった行政番号や、勤務先での社員番号、また民間企業の個人情報にも同じ番号をつけ一元管理される可能性があります。今はそれぞれ単独の番号がついており、法的にも規制されていますが、管理する側の利便性から考えれば一元化を目指すのは当然の流れです。

 私は、国民のプライバシーや、市民が憲法などで保障された諸権利を守り、国家との適切な緊張関係を保つ立場から、全国一律に統括されたコンピューター管理による住民基本台帳制度に反対してきました。現在の情報化の段階は、国家がやろうと思えば、国民の私生活を把握し、さらには国民の意思や行動を統御することも可能にしています。国家が国民の基本情報をコンピューターで一元管理できる住基ネット、カード制度は、国民総背番号制であり、国民や市民一人一人にとっての脅威にほかならないと指摘するものであります。

 国はこれまで厳しい財政状況を理由に地方への補助金や交付税を引き下げてきました。しかし住基ネット、カードに関しては特別交付税で面倒を見るなど湯水のごとく税金を垂れ流しています。ここに国家権力者の本質とその執着ぶりが見て取れるのではないでしょうか。

 四点目は地方自治の侵害です。
いうまでもなく住民基本台帳は自治事務であり、旧来の住民基本台帳の管理は市町村が責任を負えるものでした。しかし住民基本台帳ネット、カードは自治事務と位置づけられながら、市町村の意向をほとんど無視した形で進められています。
万全の態勢が整っていなければ大量の個人情報が漏出する可能性があり、小さな自治体にも、コンピューターの専門知識や管理能力が必要不可欠となり、過度の財政負担も強いられるなど、まさに国の下請けにされ、地方自治を侵害するものです。住基ネットシステムは地方自治体の制度を使って、国の番号をつけるという基本的な矛盾を持っていると指摘するものです。

 五点目は個人情報の漏えいの問題であります。
住基ネット、カードに関する情報は意図的であるなしにかかわらず、漏えいする可能性を持っています。個人情報の漏えいは、機械だけでなく、住基事務に従事している職員、個人情報を知り得る職員、メーカーや下請なども含めて絶対大丈夫だという保証はあり得ません。ネットの世界に100%のセキュリティがないことは多くの専門家の指摘するところであります。
 
 既に北海道の斜里(しゃり)町では住基ネットの操作マニュアル、愛媛県愛南町(あいなんちょう)では住民票コードそのものが漏洩した事件が発生し全国の市町村を結ぶ住基ネットのセキュリティの重大な欠陥を如実に示しています。

 こうして官民それぞれに膨大な情報量が集積された現在のIT社会の中では瞬時に漏えいする可能性があります。そして住基カードは、紛失、盗難に遭った場合も考えなければなりません。

 また質疑で京都府宇治市の全市民約十九万人分の住民票データなどが、インターネット上で売りに出された事件をめぐって、宇治市はその責任を問われ、住民の「損害」を一人一万五千円とする判決が確定しています。
もしもの場合は「漏えいさせた自治体が責任を負うのが基本」であり、ネットへの参加には、膨大な損害賠償の覚悟がいることを指摘するものです。

 今は住民票コードと履歴、そして基本情報だけかもしれませんが、このICチップには新聞1ページ以上の情報を入れることができ、今後戸籍、病歴など多くの情報が入力される可能性があります。

 入力情報の決定も自治体に裁量があるとしても多くの情報が入力された住基カードを多くの市民が持ち、紛失、盗難に遭った場合の情報漏えいを考えますと大変危険だと指摘せざるを得ません。

 六点目は住基カードよりも証明書発行カードを充実させるべきだと考えるからです。
 一向に普及が進まない住基カードに比べてほぼ同時にスタートした証明書発行カードは住民票、印鑑証明の発行に使えることもありますが、現在46649枚と住基カードの約10倍であり、どちらが市民にとって必要だったか、その差は歴然としています。
 私は証明書発行カードに写真でも付ければ、この差は100倍ぐらいに広がり、特別交付金の無駄も省けると思っています。また茨木市だけで完結しますし、全国的に個人情報が漏洩するといった心配もありません。住基カードの有効期間10年に対し、証明書発行カードには期限がなく、これの充実によって市民の要望には応えられると私は考えます。

 最後にすでに500円手数料を払った人からすれば不公平感が生じること、外国籍住民を無視されていることも指摘し反対討論を終わります。