茨木市議会議員 山下けいきHP

 

  西日本入管センター関連 1992.10.19 朝日

 偏見ありあり回覧ビラ  

 

 ワープロの両面に、文字が次々に打ち出された。
 「エイズ」「タン」「ツバ」「ゴキブリ」「野宿」「麻薬」「不法外国人」。
 2月末の夜、大阪府茨木市にある新興住宅地。不法就労や密入国で退去処分を受けた外国人を一時的に収容する施設の計画が持ち上がり、地元の郡(こおり)地区の住民が反対を訴えるビラ作りに集まった。

 出来上がったビラには「一時的な検査でエイズ患者を見つけ出せるのか」「収容所のタン、ツバは雨水に混じり、ハエ、ゴキブリが病原菌をまきちらす」と刺激的な言葉が並んだ。 
 ビラは投げ込み、あるいは回覧版に添えられて家庭に入った。
 移ってきて5年目の女性(46)は勤め帰りに、近所の女性に呼び止められ、建設反対の署名を求められた。「エイズの水で米が育つのよ。子供が襲われる」。あのビラをもとに話していると直感した。「科学的ではない」と思ったが、何も言わず、名前を書いた。近所付き合いをぎくしゃくさせるのがいやだった。
 別の女性(39)は。「何も意思表示をしないのは賛成と同じ」と班長からビラと署名用紙を渡された。転居して間がなく、「近所からいつも見られている、と感じていた」。離れて暮らす父母の名も書き入れた。
 外国人をエイズや伝染病の発生源、と決めつけるようなビラはまずいのではないか、との声が住民の間から出たのは一、二週間後だった。その後、
地区外の革新系市議を中心に強制送還に反対の立場から「茨木入管収容所建設問題を考える会」が発足、「エイズ・ビラ」に対して「外国人への偏見とべっ視」と批判した。
 ビラ作りに加わった人たちはこう言う。「それぞれの疑問や不安をメモにして持ち寄った」「不法外国人からエイズを連想した。入国管理局のパンフレットにあった『麻薬』という文字に刺激された」「収容所は怖い、という気持ちが先に立った」
 建設反対推進委員会の福井喜代司委員長(63)は「外国人への偏見を生むようなビラについては反省している。しかし、法務省の土地があるからといって、茨木に施設を持ってくるのは納得がいかない」と話す。

 夏になって、大阪入国管理局は、住民から求められた対話集会に「みなさんとは異質の反対運動の人々を会場に入れないでほしい」と条件をつけた。「考える会」のことを指していた。公安担当の警官が市役所をひんぱんに訪ね始めたのもそのころだ。
 対話集会の日、住民は入場者を一人ひとり自治会名簿と照合、「この人は地元の人」と確認して入れた。
 9月には、市内の目抜き通りに350人が集まり、「建設反対」のちょうちん行列をした。
 地区では2600世帯のうち、約70人が外国人。在日韓国・朝鮮人が多いが、中国人やベトナム人も暮らしている。
 大阪市に働きに行っている在日韓国人二世(50)の自宅にも回覧版は回ってきた。建設反対の署名をして、隣に渡した。しかし、反対運動には加わらない。
 「生活を守りたい心情はわかる。でも、運動に携わると、外国人としての自分が際立ってしまいそうだ。風向きが変わって、ふと気づくと、こちらに吹いてくるかもしれない」
 「日本人はみんないい人です」というベトナム人男性(35)はビラも署名簿も見たことがなかった。日本に来て8年になる。町工場の仕事を終えた深夜、自宅で「最近、帰化を考えている。ベトナム人のままでは、語れないことも多いのです」と話した。

 

 「偏見ありありの回覧ビラ 」をつけた議会への請願・陳情に山下は退席しましたが、ほかの議員は全員そのまま賛成しました。