茨木市議会議員 山下けいきHP]

 

公立保育所のあり方に関する意見書(案)

公立保育所のあり方に関する懇談会

はじめに

国においては、平成157月に成立した少子化社会対策基本法に基づき「少子化社会対策大綱」が閣議決定され、また、同時期に成立した次世代育成支援対策推進法においても行動計画の策定が義務づけられるなど、すべての子どもと子育てを大切にする社会づくりが推し進められ、国、地方自治体及び企業等とが一丸となって、少子化の流れを変えるための施策に取り組んでおります。

さらに、三位一体改革のもと、公立保育所負担金や補助金の一般財源化や種々の規制緩和も推し進められており、保育行政を取り巻く環境に大きな変革が起こっている状況にあります。

茨木市においても、保育行政を推進するうえで、今日的な様々な状況を踏まえ、公立保育所の機能と役割を、今後どのように位置付けていくかを検討する重要な時期にさしかかっています。

本懇談会では、このような保育行政を取り巻く変革の状況を把握しつつ、保育所の待機児童ゼロ作戦の推進や、市の財政状況を勘案した保育に係る市負担金の軽減、また、子育て支援の充実等の今日的課題の解決を図るため、公立保育所の機能と役割を明らかにするとともに、今後の保育所のあり方について協議を重ねてまいりました。

ここに、茨木市における公立保育所の今後のあるべき姿について、別紙のとおり意見をとりまとめましたので提出いたします。

1子どもを取り巻く環境

国では、急激に進行する少子化に対応するため、「重点的に推進すべき少子化対策の具体的実施計画」(新工ンゼルプラン)を柱として、仕事と育ての両立支援を中心に子育てしやすい環境整備に重点を置いた施策を進め、「待機児童ゼロ作戦」などさまざまな対策を実施してきた。

しかしながら、このような取り組みにもかかわらず、平成15年の人口動態統計では、わが国の出生数は1123,828人で、前年の115753,855人より327人減少し、また、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に出産する子どもの数の平均)1.29で、前年の1.32を下回り、少子化の進行に歯止めがかかっていない状況にある。

本市においても、出生数は、平成11年の2,854人から平成15年には2,677人に、また、合計特殊出生率は下表のとおり、平成11年の1.37から平成15年の1.26に減少し、少子化が着実に進行していることが伺われる。

さらに、子どもを取り巻く環境は厳しさを増し、全国的に児童虐待やいじめ、ひきこもりなどの問題が増加、深刻化し、新たな課題としてマスコミを通じて報じられて久しい。また、保護者が、近年の核家族化や都市化の進展により、地域の育児の孤立化、祖父母から父母への育児知識の継承されることが少なくなってきたことなどにより、育児ノイローゼや育児放棄といった問題も考えられる。

国では、歯止めのかからない少子化への進行に対する取り組みとして、子どもを大切にし、安心して子育て出来る環境づくりをさらに一歩推し進めるため、「次世代育成対策推進法」を平成157月に制定し、子育て支援や少子化の流れをかえるための施策を推進している。

また、平成15年の市民意向調査によると、共働き世帯では「保育サービス等の利用割合」は、85.4%、これは、男女共同参画社会が形成されつつあると考えられることや「保育所を利用していない」家庭のうち非就労による未資格者(潜在的保育所利用希望者)3割あることから、保育需要は少子化とは別に、増加傾向にあると考える。

2茨木市の財政状況

バブル経済が崩壊し、歳入の根幹である市税収入が前年度を下回るという厳しい財政状況にあって、各自治体も行政改革に向けた取り組みを行っている。

茨木市では、他の自治体に先がけ積極的な取り組みを継続したことにより、地方財政全体が悪化する中にあっても財政状況は良好な自治体であったといえる。

しかしながら、今日、景気の低迷が続き、市税収入が減少する中、義務的経費は増加傾向にあり、茨木市においても厳しい状況が続いている。茨木市の歳出の状況については、内訳の大きいものとして、福祉に関する経費(民生費)、都市基盤の整備に関する経費(土木費)、教育環境の向上に関する経費(教育費)があげられる。特に民生費においては、9年度と比較して15年度で1.4倍となっている。

次に、歳入の状況については、歳入の根幹となる市税収入が9年度をピークに10年度以降、景気対策のための特別減税や恒久的な減税及び、景気の低迷などから6年連続の減収となっており、市税収入の低迷は、財政運営を厳しいものにしている。このような状況のもと、健全財政を維持しつつ、時代の変化に的確に対応し、より一層の市民サービスの充実を図るためには、限られた財源の効率的な分配が必要である。緊急性・必要性のみならず、行政の守備範囲の見直しや費用対効果を精査・検討するとともに、市民二一ズを的確に判断し、誰もが納得できる事業の実施に向けて、実施事業の優先順位の明確化に努めることが強く望まれる。平成16年度の施政方針にもあるように、茨木市は、これまでの成果を踏まえ、行政改革の推進体制を強化するとともに、時代の変化に的確に対応できる新しい発想と、ムダを無くすという視点に立って、スリムで効果的な行財政運営に努めて行く必要があると考える。

 

3茨木市の保育行政の現状と課題

1)現況

(1)児童人口の推移

本市における児童数の状況は、国勢調査等によると、昭和50(1975)においては、全市人口に占める就学前の05歳人口の割合は13.5%であったものが人口増加等の影響で、平成7(1995)5.8%、平成12(2000)6.2%、平成16(2004)41日では6.4%となっており、少子化といわれている中、微増傾向がみられる。

また、15歳以上の就業者数に占める女性の割合は、昭和50(1975)28.5%であったのが平成12(2000)には38.4%となっているように、女性の社会進出が増加している。

このような状況を反映して、保育所利用の割合が増加しており、保育所入所児童数の05歳人口に占める割合も昭和50(1975)7.2%から.平成12(2000)では17.9%、平成1641日では20.7%と増加している。

(2)保育所の設置状況

ア市内保育所の状況

市内の保育所は公立18か所、私立15か所の計33か所で、定員の総数は.3,444人である。乳児保育は33か所の全てで実施しており、一時保育については民間の11か所で実施している。

イ大阪府下の保育所の現況

保育所の設置数は、平成164月現在、公立484か所、1私立636か所であり、平成10年度と比較すると、公立が48か所の減、私立が111か所の増と公立保育所の統廃合、民営化が進行している。

また、年齢別の保育児童数では、低年齢児で32.1%の増となっており、保育の二一ズがますます高まっている。

(3)施設の状況

ア 公立保育所の建設状況

庄保育所が築34年、東保育所及び中央保育所が築33年を経過するなど、築30年を経過した保育所が半数の9か所もあり、これら老朽化した施設の改築等を検討する必要がある。

イ 保育所の改修工事費

保育所の維持改修費については、毎年度平均約5,200万円の費用がかかっており、この10年間で52千万円の経費支出となっている。財政状況が厳しい中、新たに耐震改修等の課題を抱えた今、保育所の新設・移転・建替えは容易なことではなく、長期的な計画の下に進める必要がある。

(4)地域別入所児童及び待機児童の状況等

平成1641日現在、公立及び私立保育所への入所児童教は、合計3,521人である。市内を6地域に区分し、それぞれの入所及び待機児童数の状況を見ると、JR西及び総持寺地区において待機児童数が多く、71日現在においても同様の傾向が続いている。

なお、平成10年度と平成16年度の入所児童数を年齢別に比較すると、0歳児35.8%1歳児49.4%2歳児26.2%と低年齢児で大幅な増加がみられる。

 

(5)公立保育所と私立保育所の比較

ア 運営経費

平成15年度の保育所の運営経費を比較すると、児童1人あたりの月あたり経費は、公立保育所143.754円に対して私立保育所103.332円と40.422円もの差があり、私立の負担額に対して公立の負担額は約1.4倍となっている。

また、運営経費にかかる市の負担額は、公立の91.215円に対して私立は32.023であり、公立の負担は私立に対して2.8倍となっている。

なお、この要因は人件費である。

イ 特別保育事業等

本市における公立・私立保育所の特別保育事業(延長保育・一時保育・子育て支援等)などの主な実施状況は以下のとおり。

              公立保育所   私立保育所

延長保育事業(保育時問)    7時〜19   7時〜21

一時保育事業         未実施     10か所で実施

子育て支援事業        4か所     3か所

地域活動事業         18か所    14か所

障害児保育          15か所     8か所

(平成1541日現在)

ウ 私立保育所への補助

本市においては、保育行政の推進を図るため、従来から公・私立の連携と協調による円滑な運用につとめてきた。

そのため、私立保育所の運営の補助及び保護者の経費負担の軽減を図ることを目的として補助をしてきた。

2)本市における保育所設置等にかかる方針

核家族化が進み、夫婦共働き世帯の増加などに伴い、保育二一ズは多様化しており、これに対応するため保育サービスの充実を図る必要が生じてきた。

また、規制緩和推進3か年計画(平成13330日閣議決定)や、その後の地方自治法の改正による公共施設の管理運営の民間業者への委託が可能となったこと、さらに、児童福祉法の一部改正により、認可保育所整備促進のための公設民営方式の推進を図るなど、規制緩和の措置もとられ、他市においては、公立保育所の民営化を実施又は検討しているところも多く出てきた。

こうした状況をふまえ、本市においては、平成137月に、大阪府保育所設置認可等要綱をふまえ、保育所設置等に関する方針を次のとおり決定した。

ア 保育所設置等に関する考え方

設置等にあたっては、国・府の動向を見極め、既存保育所の現状を勘案し、人口動態や保育所入所待機児童数及び就学前児童数等にかかる数量など地域の状況及び延長保育等の多様な保育サービス需要等にかかる将来の保育需要をふまえ、要否の判断を行うものとする。

イ 公立保育所のあり方

@新設及び定員の増員は、原則として行わないものとする。

A統廃合、民営化については、社会情勢を見極めた検討を行うものとする。

ウ 分園設置の考え方

@「保育所分園の設置運営について」(平成1049目児発第302号厚生省通知)に基づくものとする。

A設置にあたっては、1の考え方と同様とする。

エ 無認可保育施設への補助金の交付

@本市補助金交付対処としての新たな無認可施設は認めない。

A本市補助金交付施設が保育所として認可され、事業開始した場合、本市補助金は交付しない。

オ 本市の補助金の考え方

@新設の保育所施設設備等については、茨木市社会福祉施設等整備補助金交付要綱(平成341日実施)を適用する。

A保育所の運営補助金等については、茨木市私立保育所等運営補助要綱(平成1321日実施)を適用する。

3)大阪府下における公立保育所の民営化について

大阪府下における公立保育所の民営化については北摂地域においては、高槻市、池田市、摂津市、豊中市ではすでに実施しており、府下においても堺市をはじめ9市において民営化が実施又は計画されている

4)本市における課題

今、市政は、バブル経済崩壊以降の低迷する経済に起因する厳しい財政状況や高齢化社会の到来など社会情勢の変化に対応する新たな行政サービスに迫られ、全体的な事業の見直しが強く求められている。

特に、児童福祉の推進充実については、少子高齢化時代を迎えて、児童育成への支援対策が国においても大きく取り上げられており、「少子化社会対策基本法」や「次世代育成支援対策推進法」等の施策が推進される中で、在宅児童、入所児童への支援対策を充実することが重要な課題となっている。

このような中で、本市の保育施策を推進充実していくために、解決しなければならない重要な課題として、次の3点を上げることができる。

検討すべき課題

(1)地域区分による適切な施設配置について

(2)公立保育所の機能と役割について

(3)民間活力の導入について

 

4今後の公立保育所のあり方

本懇談会では、今後の公立保育所の基本的なあり方を考える視点として、「機能と役割」と「費用と効果」の二点から協議を重ねた。

(1)機能と役割

公立保育所および私立保育所も、いずれも認可保育所として、保育に欠ける児童に対する保育を行い、保育所保育指針に基づき保育の質の向上に努めてきた。結果として、通常保育の質についてみると、個別保育所ごと、保育内容の違いがみられても、公私間に大きな格差は現在存在しない。むしろ私立保育所の方が、総じて延長保育の実施など地域の多様な保育二一ズに柔軟に応える取組が進んでいる。

他方、公立保育所は、地域子育て支援をはじめ障害児保育や児童虐待予防への対応などに取り組んできた。

しかし、現在では、こうした役割も私立保育所も同様に担うべきものとなっている。そのため、公立保育所の独自の機能や役割という観点からみても茨木市自らが公立保育所を設置するべき意識が希薄化しているといえる。

あらためて公立保育所と私立保育所の役割分担のあり方、および適正'配置のあり方を見直すべき時期に来ていると考える。

(2)費用と効果

公立保育所の蓮営費は.私立保育所と比較すると、約1.4倍となっている。また蓮営費にかかる市負担額についてみると、16年からは公立保育所の運営費が一般財源化され、国および府の負担額も一般財源から工面しなければならない状況にある。公立保育所の運営は、私立保育所と比較するとコスト高となっている。

次世代育成支援行動計画などでも確認されているが、地域子育て支援の二―ズヘの積極的な対応など、すべての子どもの豊かな育ちを支えるためには、現在の茨木市の財政状況を鑑みると、限られた財源の効果的な再配分が必要である。

それとともに、今後、公立保育所を存続させるならば、「民ができることは民にまかせる」ことを原則とし、公立保育所が担うべき役割の範囲を特化・限定し、高コストに見合った公立保育所に相応しい役割を明らかにする必要がある。

(3)まとめ

今後の公立保育所のあり方としては、次の点に十分配慮して、茨木市の保育施策を推進していくことが望まれる。

・公立保育所では、幅広い年齢層の保育士を効果的に活用、地域子育て支援の二一ズを把握し、私立保育所が担えない二一ズに対して、子育ちのセーフティーネットとしての役割を積極的に担うことが期待される。

たとえば、私立保育所では対応することに限界がある虐待児童やDVなどリスクのある在宅家庭の子どもに対して、保健師などと連携しながら定期的に訪問し支援に取り組む。

・公立保育所では、経験豊かな保育士を活用し地域の子育てボランティアグループの立ち上げおよび運営の支援に取り組み、幅広い地域の子育て支援のネットワーク化を図る。

また、こうした活動を通じて、制度が対応していない地域の子育て二一ズを発見し、ネットワークの構成員とともに、新たな支援事業の企画立案・実施に取り組む。

・公立保育所は、障害児保育の実績を継承しつつ、ノーマライゼーションの立場から、すべてのこども達の発達を支援するセンターとして位置付け、私立保育所では対応困難な障害をもつ児童を受け入れる。

一人ひとりの子ども達の発達支援するため、保育内容を充実させるとともに、こうしたノウハウを生かして、保育所機能を地域展開し、発達障害の子どもなどを含め、在宅家庭における障害をもった子ども達に対しても積極的に対応していく。

公立保育所は、私立保育所における保育所の機能および役割を明確に区別し、以上のような機能および役割をもつものとして再編し、存続声せることが望まれる。

なお、こうした機能および役割をもつ公立保育所へと再構築するためには、選択と集中の観点から、私立保育所ができることは私立保育所に委ねるべきである。公立保育所と民間保育所の配置バランスを見直し、通常保育の枠ぐみで運営ができる地域の公立保育所については、指定管理者制度の活用などによって、民間委託することが必要である。存続させる公立保育所については、それぞれの地域ごとにセーフティーネット機能をもつ保育所として適正配置し、重点的に財源及び人員を配置することが必要である。

また、民間委託においては、保育所と幼稚園を一体として捉える総合施設なども選択肢の一つとして検討することが望まれる。

民間委託の実施にあたっては、移管のプロセスにおいて、保護者との意見交換に努めることが大切である。それとともに、保育内容の積極的な情報公開、効果測定のために「第三者評価」の受審を求めることを検討されたい。

 

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